オートファジーの主要機能
2024年04月15日
前回はオートファジーの主要機能の1つめ、栄養源の確保について書きました。
今回は2つめと3つめを書きます。
2 細胞成分の代謝回転
オートファジーは飢餓状態だけでなく普通の状態でも働きます。
男性15~64歳の推奨量は1日に65g、成人女性は50gです。
摂取したタンパク質は胃腸でアミノ酸に分解されて小腸から吸収されます。
そのアミノ酸はエネルギー源として使われ、尿素として排出されます。
タンパク質の材料になるのは実はほんの一部なのです。
体重60kgの成人男性の場合、1日に240gのタンパク質を生命維持のために体内で作っています。
食物から摂取したタンパク質が65gですから本来ならまったく足りないですよね。
この差を埋めているのが自らの細胞の中から得られるタンパク質です。
細胞の中のタンパク質をオートファジーで分解してアミノ酸にして、これを材料にしてタンパク質を作ります。
ざっくりした計算で、毎日37兆個の細胞の中のタンパク質の1~2%を分解すると賄えます。
タンパク質以外にもさまざまな物質を分解して新しいものに作り替えています。
なぜこのようなことをする必要があるかというと、少しずつ古くなったものを新しい部品に置き換えることで新しい状態を保つことができるからです。
細胞を新しく健康な状態を維持するために行われています。
一般的なイメージで新陳代謝というと細胞自体の入れ替わり、例を挙げると皮膚が分かりやすいです。
表皮の細胞が死んで垢となって体からはがれるとその下から新しい表皮が現れる、といったもの。
オートファジーの場合は細胞内の成分の入れ替えです。つまり、従来から知られている細胞の入れ替わりだけでなく、細胞成分の入れ替わりも行われることで
細胞の恒常性維持、ひいては生体の健康維持に必須です。
特に脳の神経細胞や心臓の心筋細胞のように、一生の間にほとんど入れ替わらない細胞では特に重要です。
3 有害物の隔離除去
オートファジーは自己成分を分解するだけでなく、細胞内に入ってきた細菌などの有害物を隔離して除去する機能を持つことが分かりました。
オートファジーによる細菌などの隔離除去は自己成分ではなく、外から入ってきたものを食べることからゼノファジーxenophagyとも呼ばれます。
Xenoは異物、異種の意味で語源はギリシャ語xenos「見知らぬ人」です。
現在進行形で研究が進んでいて、さまざまな細菌やウイルス、原生動物など広範な病原体が駆除されることが明らかになっています。
また一方でオートファジーを回避する能力を持つものや、オートファジーを利用して増殖する病原体まで発見されています。
たとえばコロナウイルスはオートファジーを妨害するタンパク質を持っています。
有害物の隔離除去というオートファジーの機能は新しい免疫システムの発見でもあります。
生物は体内に侵入してきた細菌などの外敵を排除する仕組みを持ちます。
これが免疫システムで自然免疫と獲得免疫があります。
自然免疫は侵入した外敵をマクロファージという貪食細胞が食べて排除します。
これは進化上早くから存在するシンプルな仕組みです。
獲得免疫は脊椎動物以降に出来た高度な仕組みです。
特異性の高さと、一度侵入した特定の敵を長期にわたって記憶できることが特徴です。
B細胞が特定の敵にだけ結合する抗体と呼ばれるたんぱく質を分泌し、それを用いて敵を攻撃・排除します。
このBはBone Marrow骨髄のことで、骨髄内の造血幹細胞から派生、分化成熟しで産生されます。
キラーT細胞は特定の敵が感染した細胞を攻撃し、感染細胞ごと排除します。
このTはThymus 胸腺のことで、骨髄内の造血幹細胞から分裂したT細胞は、骨髄を出てからまず胸腺と呼ばれるリンパ組織で成熟を進めます。
これら免疫細胞と呼ばれる特別な細胞だけが体内に侵入した外敵を排除していたと考えられてきました。
これに対してオートファジーはあらゆる細胞が持っている仕組みです。
つまり生物はどの細胞も免疫細胞の助けを借りずとも有害物を排除できるという免疫システムを持っているのです。