うつ病
うつ病とは(現代医学の視点)
うつ病の概要

うつ病は、気分の落ち込みや意欲の低下が長期間続き、日常生活に支障をきたす精神疾患です。
主な症状として、
抑うつ気分
興味・喜びの喪失
睡眠障害
食欲の変化
疲労感
集中力の低下
などが挙げられます。
重症になると自殺念慮が現れることもあります。
うつ病の原因は複合的で、ストレス、遺伝的要因、脳内の神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)のバランスの乱れが関与すると考えられています。
診断には、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)やICD-10(国際疾病分類)などの診断基準を基に、精神科医や心療内科医が問診を行い、症状の持続期間や影響を評価します。
うつ病の一般的な治療法
うつ病の治療には、薬物療法、カウンセリング、生活習慣の改善が組み合わされます。
- 薬物療法:抗うつ薬(SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬など)が処方され、神経伝達物質のバランスを整えます。
- カウンセリング:認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)などの心理療法が有効です。
- 生活習慣改善:適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠が推奨されます。
うつ病のサインと早期対応
早期にうつ病を発見し、適切な対応を取ることが重要です。
- サイン:気分の落ち込みが2週間以上続く、興味の喪失、集中力の低下、食欲の変化、睡眠障害など。
- 早期対応:専門医への相談、家族や友人に話す、ストレスを軽減する生活習慣を取り入れる。
うつ病になりやすい性格
うつ病は以下のような人に多い傾向があります。
・責任感が強くて仕事熱心
・几帳面で凝り性
・周囲からはまじめな人
また、秩序を大切にし、義理堅く、人に頼まれると断われない性格です。
ものごとをいい加減にできないので、仕事を背負い込み、不調を感じても頑張ってしまいます。
東洋医学からみた「うつ」
東洋医学では古くから心と体の関係に注目しています。
「心身一如」という言葉があります。
これは心と体は一体で分けることができない、という意味です。
身体が不調な時は精神的に弱くなります。
また、精神面が不調な時は体も変調をきたしやすいです。
気・血・水の乱れとうつ症状
東洋医学では、体内の「気・血・水」のバランスが乱れると、心と体に影響を及ぼすと考えます。
- 気の停滞(気滞):ストレスや感情の抑圧により気の流れが悪くなり、イライラや憂鬱感が生じる
- 気の不足(気虚):疲れやすく無気力になり、やる気が出なくなる
- 血の不足(血虚):不眠や不安感、めまいなどが現れる
自律神経と五臓六腑の関係
- 肝:気の流れを調整する働きがあり、ストレスに大きく関与
- 心:精神活動を司り、動悸や不眠と関連
- 脾:栄養を吸収し気血を生み出す。胃腸の不調とうつの関係が深い
東洋医学的なうつの分類
- 気滞:ストレスが原因で気の流れが悪くなる
- 気虚:エネルギー不足による無気力感
- 血虚:血の不足による精神不安や不眠
鍼灸でうつ病に対してできること
鍼灸による自律神経の調整
鍼灸は自律神経のバランスを整え、副交感神経を優位にし、リラックス効果をもたらします。
気血の巡りを整え、心身のバランスを取り戻す
適切なツボを刺激することで、気血の流れを改善し、心身の安定を図ります。
東洋医学における、うつ病に対する施術
うつ病とは現代医学的分類における名称ですので、東洋医学とは分類の方法が異なります。
東洋医学でうつ病などの精神の不調に相応する証はいくつかありますが、最も代表的な証は心腎不交証です。

心腎不交証
慢性疾患、房事過多、過労や精神ストレスなどにより起こります。
特にストレスは気を鬱して化火を形成します。
これが原因で心陽(火)が偏亢して、腎の陰液を消耗し腎陰虚を引き起こします。
また腎陰虚により心火の抑制が困難となり、心火が亢進して心神内乱の原因となります。
水火不済(腎と心の交流が悪くなる)。
心は神を蔵します。
このときの神とは精神活動全般を指し、その中心となって制御しています。
腎は「霊枢・経脈篇」にあるように、肝膈を貫き上行します。
ここで肝の「疏泄を主る」という性質が関与してきます。

「疏泄を主る」とは、肝には気や血の流れを円滑に、のびやかにする働きがあることを意味します。
心と腎の交流をよくするのも悪くするのも肝の働きが影響します。
また腎は脳を主っています。
「素問・脈要精微論篇」にあるように「頭は精明の府」とあるように、脳にも精神作用があります。
肝と腎の関係から以下の証も考慮に入れます。
施術方針
交通心腎・滋陰降火・引火帰元
心と腎の巡りを良くして陰虚を改善し、火を除くことです。

肝腎陰虚証
肝と腎は、肝血が腎を養うことによって精を生成し、腎精が肝を滋養して血を生成する、という関係にあります。
ストレス、疲労の長期化、慢性病などによって両者のバランスが失調すると、内熱が生じ擾乱により肝気の疏泄や腎の精蔵機能を減退させます。
肝腎陰虚証が因子で陽気(肝陽)が上昇したのを肝陽上亢といい、上半身に熱証の症状を呈して肝鬱化火による肝陰の灼傷などで陰が陽を制御できません。
また、肝の条達(四方に、すみずみに通達すること)が失調して精神状態を阻害して心神や筋脈を滋養できません。
施術方針
交通心腎、滋陰降火(心と腎の巡りをよくして陰虚を改善し、火を除く)
これに加え、肝腎陰虚証の滋養肝腎(肝腎の精血を滋養して内熱を冷ます)を施します。
そして心経だけでなく、心を外から守る心包経も施術対象となります。
肝が陰虚証でなく実熱証の場合もあります。
肝気鬱結
主に七情の乱れによるものが多いです。
ストレスが慢性化すると精神刺激となって肝の疏泄作用を乱して発症します。
情緒の乱れによって肝の柔順性を失い、気滞によって脹痛が起こります。
施術方針
疎肝理気解鬱(鬱滞した肝気の流れを改善する)
肝火上炎
肝気鬱結が長期化し、さらに精神刺激や情緒的な変化が加わって強い熱証が起こったものです。
施術方針
瀉肝清火(肝火を取り除き、燃え上がる炎をを鎮めること)
うつ病に対するセルフケア
食事・運動・睡眠と心の健康
- 食事:ビタミンB群やトリプトファンを含む食品(大豆、バナナ、魚など)を摂取
- 運動:ウォーキングやヨガで気血の流れを良くする
- 睡眠:規則正しい生活で体内リズムを整える
うつ病に対する簡単なセルフケア


- ツボ押し:
百会(ひゃくえ)両耳の上端を結んだラインと、顔の正中線(鼻やおでこを通るライン)が交差する点にあります
神門(しんもん)手のひら側の、手首の小指側にあるシワ(手首の横ジワ)の端
を優しく押す
- お灸:三陰交(さんいんこう)内くるぶしの一番高いところから、指4本分上で、骨のすぐ後ろ側で押すと少し痛いところ
せんねん灸だと簡単に使えます

- 呼吸法:腹式呼吸でリラックス
副交感神経優位になります
鍼灸と併用できるセルフメンテナンス法
- 瞑想やアロマセラピーの活用
- 温浴やストレッチで血行促進
このように、鍼灸はうつ病の改善に役立つ可能性があり、生活習慣の見直しと組み合わせることで、より良い効果が期待できます。