うつ

うつは何らかの原因で気分が落ち込み、生きるエネルギーが乏しくなってきます。
その結果、身体のあちこちに不調があらわれ、うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠などを特徴とする精神疾患で気分障害に分類されます。
日本人の5人に1人が、一生のうちで一度はうつを経験するといわれている時代です。

うつは精神面、身体面にさまざまな不調があらわれます。
一般的にはそれらを原因別に
「身体因性うつ」
「内因性うつ」
「心因性うつ」
と分類されてきました。
最近では不調の程度と持続期間による分類が行なわれるようになってきました。
軽いうつに悩む人たちは普通に見えるために「単なる甘えだ」と誤解されたり、本人が病気と気がつかず適切なケアを受けない場合も少なくないようです。

精神の状態

抑うつ気分
興味・喜びの消失
思考力や集中力が落ち、仕事を能率よくできない
人に会いたくない、人と一緒にいたくない
寝てもさめても同じこと(心配ごとや悲観的なこと)を考えている
強い罪責感
自殺への思い etc.

身体の状態

不眠、頭重感、頭痛、めまい、食欲減退または増加、胃部不快感、便秘、口が渇く、肩こり、背中や腰などからだの痛み、息苦しい、動悸がする、手足のしびれ感、嫌な汗や寝汗が出る、排尿困難、性欲低下、女性では月経不順etc.
気分の落ち込みとうつの見分け方
1)「気分の落ち込み」やそれによる不調が2週間以上続く
2)仕事や日常生活に支障がある
3)身体にいろいろな不調が現れる(しかし、検査を受けても原因はわからない)
これらに該当するとうつの可能性があります。

うつになりやすい性格

うつは以下のような人に多い傾向があります。
・責任感が強くて仕事熱心
・几帳面で凝り性
・周囲からはまじめな人
また、秩序を大切にし、義理堅く、人に頼まれると断われない性格です。
ものごとをいい加減にできないので、仕事を背負い込み、不調を感じても頑張ってしまいます。

成因

生物学的仮説と心理的仮説があります。
心理的仮説は生理的な理由付けが無いため、科学的根拠に欠けるとの批判が存在します。
しかし一方で、生物学的仮説は現在は脳と精神の関係がほとんど解明されていないこともあり不調を一時的に抑える程度の薬しか存在しません。

うつ ~東洋医学の視点~

東洋医学では古くから心と体の関係に注目しています。
「心身一如」という言葉があります。
これは心と体は一体で分けることができない、という意味です。
身体が不調な時は精神的に弱くなります。
また、精神面が不調な時は体も変調をきたしやすいです。

東洋医学の病因分類

東洋医学では病因を3つに分類しました。
1)外因・・六淫(6種類の外感病邪)
2)内因・・七情(7種類の感情)
3)不内外因・・飲食・労逸(過度な疲労・必要以上の休息)・外傷です。

この2つめの七情の乱れが現代医学で精神科や心療内科が扱う領域です。

内傷七情

七情とは、怒・喜・思・憂・悲・恐・驚の7種類の感情の変動です。
外界の事物に対する通常の情緒反応を指します。
しかし、突然強い精神的刺激を受けたり、長期にわたって一定の精神的刺激を受け続けたりして、
生理的に調節しうる許容範囲を超えてしまうと臓腑気血の機能失調が引き起こされます。
このとき七情は発病因子となります。
七情は内傷七情と呼ばれています。

人の精神活動と臓腑気血の機能には深いつながりがあります。
五臓の精気は各精神活動の基礎となる物質ですが、過度の精神刺激は悪影響となり、五臓の失調をもたらします。
それぞれの感情と五臓の関係は下記のとおりです。

怒(気上がる)・肝
怒りすぎると肝の疎泄機能に異常が生じ、肝気が横逆して上衝します。
また血は気に随って逆行して昏厥します。

喜(気緩む)・心
喜びすぎると心気が緩み、神が心にいれなくなり精神を集中できなくなります。
ひどくなると失神や狂乱などの意識の異常がおこります。

思(気結す)・脾
思慮しすぎると気機を鬱結させ、心を傷め脾を損ないます。
心神が消耗すると心悸・不眠・多夢・健忘が現れます。
脾気を損傷すると運化が弱まり?腹脹満・食欲不振になります。

悲(気消える)・肺
悲しみすぎると肺気が弱まり意気消沈するようになります。

憂(気塞がる)・肺
憂いすぎると肺気が弱まり心が滅入るようになります。

恐(気下がる)・腎
恐れすぎると腎気不固となり、気が下にもれて二便の失禁がおきます。

驚(気乱れる)・腎
突然驚くと心神のよりどころがなくなり、驚き慌ててどうしてよいか分からない混乱状態になります。

東洋医学におけるうつに対する施術

うつとは現代医学的分類における名称ですので、東洋医学とは分類の方法が異なります。
東洋医学でうつなどの精神の不調に相応する証はいくつかありますが、最も代表的な証は心腎不交証です。

心腎不交証
慢性疾患、房事過多、過労や精神ストレスなどにより起こります。
特にストレスは気を鬱して化火を形成します。
これが原因で心陽(火)が偏亢して、腎の陰液を消耗し腎陰虚を引き起こします。
また腎陰虚により心火の抑制が困難となり、心火が亢進して心神内乱の原因となります。
水火不済(腎と心の交流が悪くなる)。
心は神を蔵します。
このときの神とは精神活動全般を指し、その中心となって制御しています。
腎は「霊枢・経脈篇」にあるように、肝膈を貫き上行します。
ここで肝の「疏泄を主る」という性質が関与してきます。

「疏泄を主る」とは、肝には気や血の流れを円滑に、のびやかにする働きがあることを意味します。
心と腎の交流をよくするのも悪くするのも肝の働きが影響します。

また腎は脳を主っています。
「素問・脈要精微論篇」にあるように「頭は精明の府」とあるように、脳にも精神作用があります。
肝と腎の関係から以下の証も考慮に入れます。
施術方針
交通心腎・滋陰降火・引火帰元
心と腎の巡りを良くして陰虚を改善し、火を除くことです。

肝腎陰虚証
肝と腎は、肝血が腎を養うことによって精を生成し、腎精が肝を滋養して血を生成する、という関係にあります。
ストレス、疲労の長期化、慢性病などによって両者のバランスが失調すると、内熱が生じ擾乱により肝気の疏泄や腎の精蔵機能を減退させます。

肝腎陰虚証が因子で陽気(肝陽)が上昇したのを肝陽上亢といい、上半身に熱証の症状を呈して肝鬱化火による肝陰の灼傷などで陰が陽を制御できません。
また、肝の条達(四方に、すみずみに通達すること)が失調して精神状態を阻害して心神や筋脈を滋養できません。
施術方針
交通心腎、滋陰降火(心と腎の巡りをよくして陰虚を改善し、火を除く)
これに加え、肝腎陰虚証の滋養肝腎(肝腎の精血を滋養して内熱を冷ます)を施します。
そして心経だけでなく、心を外から守る心包経も施術対象となります。
肝が陰虚証でなく実熱証の場合もあります。

肝気鬱結
主に七情の乱れによるものが多いです。
ストレスが慢性化すると精神刺激となって肝の疏泄作用を乱して発症します。
情緒の乱れによって肝の柔順性を失い、気滞によって脹痛が起こります。
施術方針 
疎肝理気解鬱(鬱滞した肝気の流れを改善する)

肝火上炎
肝気鬱結が長期化し、さらに精神刺激や情緒的な変化が加わって強い熱証が起こったものです。
施術方針 
瀉肝清火(肝火を取り除き、燃え上がる炎をを鎮めること)