五十肩 肩関節周囲炎

五十肩とは、文字通り50代で最も表われる不調です。
・激しい痛み
・腕を挙げることができない
・夜間に痛くて眠れない 
など、レントゲンや血液検査などで異常は見当たらないものの日常生活に支障をきたします。

多くは約1年で自然によくなりますが、その間、痛みと運動制限のためにかなりの苦痛を強いられます。
慢性期の運動を怠ると肩の可動域が発症前と比べると狭くなることもあります。

五十肩は通称です。
凍結肩(frozen shoulder)や疼痛性肩関節制動症(stiff and painful shoulder)と呼びます。
五十肩は狭義の肩関節周囲炎です。

五十肩の原因

五十肩になる原因は、加齢による退行性変化が基となるようですが、まだはっきりとわかっていません。
しかし腕を上げた状態で長時間作業をした後に発症しやすいということは言えそうです。
たとえば樹木の手入れの後や、大掃除で高い場所を拭き続けた後に発症することがよくあります。
重いものを持ち上げた瞬間や、テニスやゴルフのスイングなどの最中に突然激痛に襲われます。
その後肩を動かすたびに痛む場合が多いです。
しかし上記の動作だけで五十肩になる事は少ないです。
前段階で日常的に肩関節に負担をかけ続けているとリスクが上がります。
睡眠時や家でくつろいでいる時の姿勢が原因の根本です。
・腹ばいになって肘をついてスマホを見る
肩関節や首を動かす筋肉が緊張し続けます。
肩関節や肩鎖関節、胸鎖関節に負荷がかかり続けます。
・就寝時横向き、しかも同じ側を下にして寝る
・横向きでソファに寝そべってテレビやスマホを見る
下になる側の肩や肩甲骨が圧迫され続けます。
これらの姿勢は長時間かけて悪い状態に矯正しているようなものです。

無理な姿勢や打ち身などから五十肩になる場合もあります。
これらをきっかけとして肩関節周囲の軟部組織
(上腕二頭筋長頭腱、上腕三頭筋長頭、腱板、その他の筋肉の腱、滑液包、靭帯など)の広範な炎症を起こします。

五十肩の症状

症状の特徴は以下のとおりです。
①肩周囲の自発痛、ときに強い夜間痛
②運動痛
③運動制限(拘縮)
④圧痛

痛みは肩の前後、外側など広範囲に現れます。
腕を前や横や後ろにあげたり振ったりするほとんどの動作で、肩の前後あるいは外側に、筋肉の収縮による痛みやけん引痛が現れます。
疼痛を伴う運動制限のため、結帯動作(手を腰の後側にもっていく)、結髪動作(手を後頭部にもっていく)、服の着脱動作、洗顔動作など、日常生活で必要な動作が困難になります。
運動時の疼痛は肩に限らず首、背中、上腕にまでおよびます。
肩周囲の軟部組織、とくに腱部や腱付着部、結節間溝部によく現れます。

五十肩の3病期

五十肩は痛くなってから痛みがなくなり肩が回せるようになるまで、多くは1年前後かかりますが、3つの病期に分類されます。

①急性期:
関節に起きている炎症が強く非常に痛みが強い時期です。
多くは発症から約1~2か月ぐらいです。
この時期は、無理は禁物です。
極力肩や手を動かさないようにして、重いものを持つなど痛みを誘発する運動や作業は控えましょう。
とはいえ、全く動かさないと関節が拘縮して可動域が狭い状態で固定化されてしまいます。
軽い運動は発症してから4~5日後くらいから始めましょう。

②慢性期:
肩の痛みも急性期の刺すような痛みから鈍い痛みに変わります
急性期のあと約1~2か月ぐらいです。
夜に眠れるようになりますが、まだ腕を動かすと痛いし、運動制限がある状態です。
この時期は急性期より痛みが少なくなっていますので、積極的に肩の運動をしましょう。
右図は五十肩を改善するために行う運動で最も有名なコッドマン体操です。
別名アイロン体操といってアイロンを手にもって行います。
肩関節の力を抜いてアイロンの重みで軽く肩関節を引っ張りながらゆらゆらと動かします。

③回復期:
痛みや不快感が徐々に少なくなり、手が動かしやすくなります。
慢性期のあと約3~12ヶ月ぐらいです。
さらにがんばって積極的に毎日運動しましょう。
努力は身をむずびます。
運動を継続すれば発症前と同じように肩を動かすことができるようになるでしょう。

肩関節周囲炎の分類

肩の痛みを生じる原因は肩関節や関節周囲の軟部組織が多いです。
それ以外に肩への分布神経の中枢側(頚椎や胸椎)の圧迫刺激も原因になります。
関節炎、変形、脱臼、捻挫などで生じます。
慢性関節リウマチでも肩関節に炎症が生じます。

広義の肩関節周囲炎の分類(従来の分類)

・烏口突起炎
・上腕二頭筋長頭腱炎
・肩峰下滑液包炎
・腱板炎(変性性、外傷性、腱板不全断裂)
・石灰沈着性腱板炎
・関節上腕靭帯障害(不安定性肩関節)
・いわゆる五十肩(疼痛性関節制動症)「狭義の肩関節周囲炎」
・二次性肩関節拘縮
・肩結合織炎
中高年以上の人で不調が長引いている場合、腱板炎が多いです。
その中でも腱板不全断裂は当院でよく見ます。
広義の肩関節周囲炎以外にも肩が痛くなる疾患がまだあります。
・翼状肩甲(長胸神経麻痺)
・肩腱板断裂
などなど

五十肩 肩関節周囲炎の鍼灸施術

腱板を構成する筋(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)

五十肩で最も痛みが出やすい場所は腱板で、中でも棘上筋腱がターゲットになります。
次に上腕二頭筋長頭腱が上腕骨の結節間溝を通る所も多く発生します。

腱板を構成する筋(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)や三角筋、上腕二頭筋などの支配神経は腕神経叢といって頚椎(C5~T1)の横から出て首の側面にある前・中斜角筋の間(斜角筋隙)を通ります。
ここは腕に血液を供給する鎖骨下動脈も通ります。

五十肩は首に負担がかかる動作をすることが原因で起こる場合も多く、首の筋肉が凝っています。
ですので腕神経叢の神経根や後頸部、および前・中斜角筋などへの刺鍼も五十肩に欠かせない施術点です。

腕を動かすときは肩甲骨の動きが大きく関与します。
そのため肩関節以外にも肩甲骨内側の肩甲挙筋菱形筋、前胸部の烏口突起に付着する烏口腕筋小胸筋なども不調に応じて施術します。
胸郭部は肺があるので刺鍼せずに上腕部や挟脊穴を刺鍼することで施術できます。
肩甲骨と上腕骨をつなぐ大円筋も重要な施術ポイントです。

あと、肩関節や肘が軽度に曲がりっぱなしになっている人がいます。
特に高齢者に多くみられます。
そして肩甲骨の位置が通常より上がって外に向いてます。
上腕三頭筋長頭腱が付着する肩甲骨関節下結節と肘頭が施術ポイントです。

脱力できる姿勢を取って筋膜リリースをすると、それだけでも可動域が広がります。
さらに刺鍼をすることで間質液を巡らせて筋緊張を解き痛みが出ない状態を目指します。