バレエ歴10年の女性が直面した「肩の前側の痛み」~その原因と対処法~

2025年04月16日

「子供の時はできる環境になく、大人になってから始めたバレエ。
もう10年以上レッスンを続け50代になってもバレエを楽しんでいます。
年齢を重ねても体を動かす喜びを感じられるのは本当に幸せなことですが、最近ちょっとした悩みが出てきました。
それが「肩の前側の痛み」です。
特に、腕を内側に回したり、体に寄せるような動き(内転・内旋)をするとズキッと痛むのです。
発表会に向けて練習してますが、痛くて困ってます。」
整形外科で診てもらったら、五十肩でも肩腱板断裂でもないので、使いすぎだと言われたそうです。

今回は、そんな肩の前側の痛みについて、現代医学・東洋医学(鍼灸)・セルフケアの観点から、どのように向き合えばいいのかを解説します。

「肩の前側の痛み」の原因

この症状、「上腕二頭筋長頭腱炎」や「肩関節インピンジメント症候群」が疑われます。
・姿勢の崩れ(巻き肩・猫背)
・腕の使いすぎ(ポールドブラやリフトの練習など)
・加齢による筋腱の摩耗
とくにバレエでは、腕を外側に開いて優雅に見せる動作が多いため、無意識に肩の前側に負担がかかることが多いのです。

上腕二頭筋腱鞘に付着する大胸筋

上腕二頭筋腱鞘は、それ自体の炎症だけでなく、肩のインピンジメント症候群を回避するためにもとても重要なポイントです。
しかし、その腱鞘の機能を制限するのに大胸筋が関わっています。
大胸筋の停止部は、「上腕骨の大結節」と一般的には言われていますが、実際には、【上腕二頭筋腱鞘に筋膜を介して接続】している部分が存在します。
つまり大胸筋の緊張が高まると、停止部の一部である上腕二頭筋の腱鞘を引っ張ることになり、上腕二頭筋腱の滑走が悪くなり、上腕二頭筋腱鞘炎となることがあります。

肩の安定性と動きに関わる前鋸筋

そしてもう一つ忘れてはならないのが前鋸筋です。
前鋸筋は、肩甲骨と肋骨をつなぐ筋肉で、主に肩の安定性と動きに関わるとても重要な筋肉です。
とくに「肩甲骨のコントロール」に深く関わっており、スポーツ選手やデスクワークの多い人にも注目される筋肉です。
支配神経:長胸神経

  • 神経根:C5〜C7(頸椎レベル)
  • 特徴:比較的表層を走るため、打撲や圧迫などでダメージを受けやすい。

起始と停止:

  • 起始(筋肉が始まる場所):第1〜第8または第9肋骨の外側面
  • 停止(筋肉が付着する先):肩甲骨の内側縁(特に前面)

この走行によって、前鋸筋は肋骨から肩甲骨を引っ張るような動きが可能になります。

機能:

肩甲骨の外転(プロトラクション)
 → 腕を前に出すときに使われます(例:パンチ動作)
肩甲骨の上方回旋
 → 腕を真上にあげるときに肩甲骨を回す動き
肩甲骨の固定
 → プッシュアップや物を押す動作中に、肩甲骨が浮かないように安定させる

前鋸筋を痛める原因:

過剰な使用(オーバーユース)
 - スポーツ(野球、ボクシング、水泳など)の繰り返し動作

不良姿勢
 - 猫背や巻き肩で筋肉が常に引き伸ばされた状態に

長胸神経の圧迫や損傷
 - 背中への強い打撲、リュックのストラップ圧迫などで麻痺が起こることも(翼状肩甲)

プッシュアップなどのフォーム不良
 - 肩甲骨が浮いたままトレーニングをすると負担が集中する

「肩の前側の痛み」の治療

現代医学的アプローチ

整形外科に行くと、次のような対処がされることが多いです
・X線やエコー検査で腱や関節の状態を確認
・炎症があれば消炎鎮痛剤や湿布
・リハビリで肩甲骨の安定性向上や姿勢改善エクササイズ
痛みが強い場合は、一時的にレッスンを控えることも勧められます。

鍼灸的アプローチ(東洋医学の視点)

東洋医学では、「肩の痛み」は経絡の滞りや気血の不足と考えます。
鍼灸では、肩貞(けんてい)・肩髃・曲池などのツボを使って、筋肉の緊張と血流を改善します
内臓(特に肝・脾)との関係から体全体のバランスも調整します
定期的に施術を受けることで、慢性的な痛みや再発の予防にもつながります。

おすすめセルフケア

1. 胸のストレッチ
バレエの姿勢は胸が閉じがち
壁に手を当てて胸を開くようにゆっくりストレッチしましょう

2. 肩甲骨のエクササイズ
ストレッチポールやバスタオルを丸めたものを地面に縦に置いて背骨で体重を支える
両手を挙げて肩甲骨から動かすように伸ばす

3. 温める+ツボ押し
肩の前側を蒸しタオルなどで温めた後、
「肩髃」①
「曲池」⑥
のツボをやさしく指圧。血流アップで痛みの緩和に

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