睡眠の正体

2024年01月4日

脳には「睡眠中枢」と「覚醒中枢」と呼ばれる神経細胞の領域があります。
この2つがシーソーのように一方のはたらきが強まるともう一方のはたらきが弱まるようになって、睡眠と覚醒を切り替えています。
体内のいたるところで産生され、血管拡張などのはたらきに関わるアデノシンという物質があります。
これは睡眠中枢を優勢にするはたらきがあります。
一方、大脳の視床下部で作られるオレキシンという神経伝達物質は覚醒中枢を優勢にするはたらきがあります。

ツープロセスモデル

睡眠の仕組みについて1982年にボルベイらが提唱した「ツープロセスモデル」という概念があります。
ツープロセスというだけに、2つの過程があります。
1つ目は睡眠圧。
覚醒している間に睡眠圧がだんだん溜まっていきます。
これがピークに達すると睡眠が始まります。
睡眠をとることで睡眠圧が弱まって覚醒します。
2つめは24時間周期の体内時計。
睡眠圧とは別に、24時間周期で覚醒を促す信号の強さが変化します。
覚醒シグナルは午後9時ころにピークを迎え、弱まると睡眠が始まって睡眠圧が弱まるまで覚醒しません。

脳内にある80種類のタンパク質の働きが活性化してリン酸化が進むと眠くなり、眠りにつくと働きが収まるという現象を2018年に柳沢正史教授らが発表しました。
このタンパク質群は睡眠要求指標リン酸化タンパク質SNIPPs(Sleep-Need-Index-Phosphoproteins)スニップスと名づけられました。
スニップスが睡眠を促して神経を休息させ、機能の回復につなげているとみているのではないかと考えられています。
80種類のタンパク質のうち69種類が神経細胞が情報をやりとりする「シナプス」と呼ばれる部位に集中しています。
眠らない時間が長くなりすぎると神経の情報伝達に支障が出るため、その回復に関わっているとみられています。
スニップスのリン酸化が睡眠圧を強めていると考えられます。
そしてスニップスのリン酸化の解消に要する時間に個人差があり、睡眠時間の長短に影響するのではと考えられます。

体内時計

体内時計とは体に備わった1日のリズムを生み出す仕組みのことです。
専門用語的には概日リズム(サーカディアンリズム)といいます。
朝起きて活動します。
それに伴い血圧や体温が変動します。
夜になると眠くなり睡眠をとります。
睡眠や覚醒に関わるホルモンを分泌します。
覚醒に関わるホルモンはコルチゾールといいます。
副腎皮質ホルモンの1つで、
・抗ストレス作用
・糖新生
・脂肪分解
・抗炎症作用・免疫抑制作用
など生命を維持するために欠かせないホルモンです。
コルチゾールの分泌量は早朝が最も高くなり、朝の目覚めを促す1日のリズムをつくっています。
睡眠に関わるホルモンはメラトニンといいます。
脳の松果体から分泌されるホルモンです。
目から入った光刺激は体内時計(生物時計・視交叉上核)を通って松果体に達します。
明るい光を感知するとメラトニンの分泌は抑制されます。
日中はメラトニン分泌が低く、夜間の睡眠中に血中濃度が最大になる明瞭な日内変動が生じます。
心身ともに健康な時であればだいたい同じタイミングでこれらが日々繰り返されます。
この体内時計の周期は平均で24時間12分くらいです。
地球の自転とほぼ同じくらいで連動しています。
この概日リズムは遺伝子が深くかかわっています。
1984年にホールやロスバッシュらによって発見された遺伝子はPeriodピリオド(周期の意味)遺伝子と名づけられました。
このピリオド遺伝子からできるPERパー・タンパク質が24時間周期で増減していることを発見しました。
これは体のあらゆる細胞すべてに備わっています。

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